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前橋地方裁判所 昭和23年(行)29号 判決

群馬県北甘楽郡高田村大字八木連三百七十八番地

原告

岩井藤十郞

右訴訟代理人

弁護士

矢野間恒治

同県同郡富岡町大字富岡

被告

群馬富岡税務署長 鈴木浅雄

右指定代理人

群馬富岡税務署直税課長

新井甚平

同署大蔵事務官

千木良志気雄

市川鶴三

右当事者間の昭和二十三年(行)第二九号所得更生所得税追徴額取消請求事件につき、当裁判所は昭和二十四年七月五日口頭弁論を終結し、次の通り判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十三年二月二十八日附を以て為した原告の昭和二十二年度所得金額を金七万四千円、所得税追徴税額を金一万八千五百五十五円とする更正決定はこれを取消す。原告の昭和二十二年度の所得金額を金三万三千八百七十五円と確定する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めると申立て、その請求の原因として、原告は昭和二十二年度におる耕地面積は別表一、乃至二八、の田畑桑園等合計一町九反九畝二十五歩であるがそのうち一九乃至二四の合計三反三畝十九歩の土地は半ば荒廃地であり、二五乃至二八の合計二反六畝二十一歩の土地は全然荒廃地であるので、完全に耕作し得る反別は、田畑桑園合計一町三反九畝十五歩である。しかも右耕地の大部分は大桁山北面の山地であつて、別表二、一三、一四、一七の合計三反十三歩の土地の如きは、秋の彼岸以後は、一日僅かに二、三時間の陽射ししかなく、従つて耕地面積の割合に收穫甚だ少く、昭和二十二年度の総收入金額は、金三万八千七十四円六十七銭で、そのうち必要な経費を控除すれば同年度の所得金額は金三万三千八百七十五円であつたので、原告は昭和二十三年一月末その旨の確定申告を被告に提出した。

一体原告は過少農家であつて、家族人員少なく、従つて稼動労力少く、耕作不完全のため收穫又少なく、昭和二十二年度においては麦は供出割当の生産さえ出来ず他から援助を受け昭和二十三年二月三日からは主食の配給を受けている状況であつて右確定申告は全く真実のものである。然るに被告は、同年二月二十八日附で、原告に対し所得金額七万四千円、追徴税額一万八千五百五十五円とする旨の更正決定をして来たから、原告はこれに対し審査請求をしたところ同年七月三十一日被告から審査の結果改訂の必要を認めない旨の決定を通告し来たので、原告は被告に対し、前記更正決定を取り消し、原告の昭和二十二年度の所得金額が全三万三千八百七十五円であることの確定を求めるため本訴に及んだと陳述し、立証として甲第一乃至第四号証を提出した。

被告指定代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として原告がその主張のような確定申告を提出したこと、被告が原告主張のような更正決定をしたこと、これに対し原告において審査請求をしたこと、原告の耕作地が、相当山間部にあり、陽射しに惠まれないことは認めるが、原告が過少農家であること、原告方の家族人員、稼動労力原告主張の日時から主食の配給を受けていることは不知、原告の耕地面積、昭和二十二年度の所得が原告主張の如くであること、昭和二十三年七月三十一日原告の審査請求に対し被告から却下の決定があつたことは否認すると述べ、審査請求に対する決定権は所轄財務局長にあるのであつて、更正決定をした被告にはない。原告主張の日時被告から原告に対して為した通知は、原告の提出した審査請求につき、その計算書その他の添付書類によつて原告の明かな誤謬を発見したので、右請求の取下げ方を勧告したものであつて、右審査請求については未だ決定がなされていない。原告の昭和二十三年二月十日提出の確定申告書によれば、原告の耕作反別は田五反九畝、畑一町三反二畝、計一町九反一畝、養蚕掃立蛾量六十瓦、不動産貸付として畑三反九畝、所得金額合計三万三千八百七十五円、所得税額六千三百五十五円である。しかし昭和二十二年八月一日現在を以て耕作反別、作付等につき、各農業者をして申告させた農業センサス票に基き原告の耕地面積を調査した結果、原告の昭和二十二年度におけるそれは、田五反、畑一町六反九畝、計二町一反九畝、外に貸付地八反であることが判明した。その所得については、農業者は、営業者と異なり経済計算に不慣れであり、一年間の收支を逐一記帳することは至難であるので、全国各税務署が現在実施している方法であるが、管内の中庸農家を選定し、その收支を調査し、これによつて田畑所得標準率を設け、これに基いて申告させているところ、前述の如く原告の耕地が高田村、丹生村に跨る山間部にあり、陽射に惠まれず、労力を比較的多く要することは認めるが、その土地生産力は北甘楽郡内においては上位に属するので、前記標準率によれば、原告の耕地は、一反歩当り田三千八百円、畑四千円、桑畑六百円、畑貸付十六円、養蚕十瓦当り七百円を相当とするのに、原告の確定申告によれば一反歩当り田二千六百円、畑二千乃至二千五百円、桑畑四百円、畑貸付九円、養蚕十瓦当り五百円となつており、明かに不当である。收穫高についても、原告の申立通りとして、公定価格あるものはこれにより、公定価格のないものは時価により計算し、更に副業收入雑收入(なお当該村の実態に基き原告が当然申立をもらしたものと思われるものを推定加算)を加え、所得税法上の必要経費を控除して所得額を計算すれば、被告の更正額に十分達する。しかも、收穫量は、米について見ると、本人の申立によれば僅かに二十三俵であるが、昭和二十二年度の原告の供出実績は二十二俵であるから、保有米僅かに一俵ということになり、原告の申立は明かに虚僞であり、又大小麦も原告は十六俵と申立てているが、供出量は十五俵である。甘藷、馬鈴薯なども原告の申立数量は虚僞のものと断定し得る、結局收穫高についても原告の供出量、保有量、家族数及び消費量を検討するときは、原告の申立より相当増收していることが確認できる。右の理由で原告の請求は許さるべきでないと陳述し、甲第二号証の成立は不知と述べ、その余の甲号各証の成立を認めた。

理由

原告がその主張のような確定申告を提出し、被告が原告主張のような更正決定をしたこと、これに対し原告において審査請求をしたことについては、当事者間に争がない。原告はその主張の耕作面積による農業経営における昭和二十二年度の所得金額は、金三万三千八百七十五円である旨主張するけれども、原告提出の全立証によるも、未だ以て被告がなした更正決定を覆し右原告の主張事実を認めるに足りない。

従つて、被告がなした原告の昭和二十二年度所得金額及び所得税追徴税額の更正決定を取り消し且つその所得金額を金三万三千八百七十五円と確定することを求める原告の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決した。

(裁判長裁判官 奧田嘉治 裁判官 黒沢信夫 裁判官 石関武雄)

(別表省略)

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